闇夜に浮かぶ紅い月
見つめあう二人から目がはなせない。
どうせなら、逃げ出してしまいたい。こんなの見たくない、見たくないのに。
こんな時に限って動かない足を呪いたくなった。
「貴方はいつも、昔からそう。ずっと耐えている。そんなの、私は我慢できませ……」
「黙れ」
さっきとは違って、感情的に言う彼女の言葉は、離れた場所にいる私にまでしっかりと聞こえた。
そして言い終わる前に、レオの手は彼女の腰を引き寄せた。
「あっ……」
それはまるで、時が止まったようで。
「大人しく、喰われていろ」
レオの声が、公園に響いた。
──私は、甘かったのかもしれない。
全部、間違っていたんだ。
何故、気付かなかったんだろうか。
私が疑いたくなる位、彼がわざと吸血鬼の面影を見せなかったことに。
こんなにも、簡単に真実は近くにだったのに。
力が抜けたようにレオに体を預ける女性の首筋からこぼれ落ちる赤い赤い。
それを支え、首筋に牙を突き立ててうずくまる彼の目は、いつもの黒い瞳じゃなかった。
髪と同じ、見たことのない紅い色をして光っている。
赤になってに包まれ、赤を堪能するレオは、紛れも無く物語の中の……。
赤い──血に見せられているレオは。
──紛れもなく、ヴァンパイアだった。