闇夜に浮かぶ紅い月


「……私には言えない?」


その時、体育の先生が交代の合図を出した。

体育館に響く笛の音に乗って、私は立ち上がる。


「ごめんっ、次試合だから行ってくるね!」


智絵理の声を背中に、私はコートへと急ぐ。

智絵理の痛い視線を感じながら、助かったと心は安堵していた。

あの後、もっと問い詰められたらなんて答えればいいのかわからなかったから。

同じ組み合わせになったクラスメイトに一言かけた後、適当に話をつけて、指定された位置に立つ。


(試合終わった後、智絵理に何言われるか……)


じゃんけんに負けたため、敵チームから先攻だ。

しかも初っ端からサーブを打つのは、確かバレー部期待の新人と言われている子。


(うわー、絶対取ったら痛いんだろうな)


苦笑いを浮かべ、サーブが来てしまったら避けようと判断する。


微かに、視界の左側に映った金色に目がいった。

体育館の外に、見覚えのある人影。


──噂の女神様。


なんで授業中校舎を出歩いているのかも不思議だったが、それ以上に違和感を感じた。

そのシルエットに何かが重なる。


(そうだ、あれは……)


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