闇夜に浮かぶ紅い月


「絢佳……っ!!」


風を切るような音がした。

叫ぶ智絵理の声に気付いた時にはもう遅くて、その瞬間、私は顔面に何かが当たる感覚を感じ取った。

突然のことで働かないバカな脳を憎みながら、私の体は衝撃に倒される。

頭は重力に逆らうことなく床に叩きつけられた。


「ちょっと、大丈夫!?」


体育館に私が倒れた衝撃音は想像異常に響き渡り、クラスメイト達も驚きを隠せない。

虚しくもバレーボールが地面を小さく跳ね返りながら転がっていく音が聞こえる。

自分がサーブを顔面で受けてしまったことをなんとなく感じ取った。


「結構すごい音したよ!?」

「~~っ」


ジワジワと広がるような痺れにも近い顔の痛み。

ガンガンと鳴り響くように痛む頭。

それに耐え、クラスメイト達に心配をかけまいと無理やり笑顔を作った。


「だ、大丈夫だから気にしない、で……?」


その時、鼻に感じる温かい液体の存在に気付く。


「え、ちょっと誰か誰か!」

「鼻血出てるよ絢香!」


恥ずかしさで死にそうだった。


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