闇夜に浮かぶ紅い月




「い、たたたっ」


保健室特有の薬品の匂いが鼻をつく中、私は部屋の中心にある丸椅子に座っていた。

あの後無事に鼻血は止まったものの、頭の痛みが取れなかったために結局保健室に来るはめになってしまった。


「あー、絢香。あんたこれ、たんこぶになっているわよ」

「嘘!」


残念さがら保健医さんが留守だったため、その変わりに智絵理が私の髪をかきあげて頭を打った箇所を確認する。


「これじゃあ湿布はれないわね。アイス持ってくるわ」

「ありがとー」


髪が邪魔をしているため湿布を貼るわけにもいかず、智絵理はアイスを冷蔵庫から取り出しにいく。

たんこぶなんて何年ぶりだろう。いや、できたことなんてないかもしれない。

鈍い痛みを持つ頭を気にしながら考えていると。


「うっわ! ホントにたんこぶ出来てるし!」


背後に現れた酒井が私のたんこぶを見て笑い始めた。

すると今度は私のたんこぶにちょっかいを出し始め、しまいには、


「~~~っ!?」


バシン、と頭に衝撃が走った。

……たんこぶがあるところに。


「おっとっと、しまったー。手が滑ってしまったー」

「バカ酒井! 今の完璧狙っていまでしょ!」


目に涙をためて訴えるも、酒井は詫びる様子はない。


「はいはい。ほら、邪魔よ」

そこに、冷蔵庫からアイスを取り出した智絵理が来たことで、酒井は蚊帳の外へと追い出された。



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