闇夜に浮かぶ紅い月

 彼の顔からは動揺の色が読み取れた。
私が起きるとは思っていなかったんだろうか。

 彼の瞳はグラグラと揺れていた。私と目を合わせようとしない。


「レオ、どうして……?」


 もう一度目の前の彼、レオに問う。

 これはなんかの間違いだって、嘘でもいいから否定してほしいという私の最後の足掻き。

 だって、こんなの嘘に決まっている。



 ――レオガ、私ヲ吸血シヨウトシタナンテ。



 無情にも沈黙が流れる。

 レオは、何も答えようとはしない。顔を上げようとしなかった。
そんな時間が少しずつ過ぎていく度に、私は思い知らされる。これは、嘘じゃないんだと。

 レオがゆっくりと顔をあげて私を見つめる。
妖しく光っていた赤い瞳はすでに漆黒に戻り、牙も見えなかった。
 しかし、その顔は今にも泣きそうなほど歪んでいて、私は息を飲んだ。

レオの唇がゆっくり開く。


「……俺がしようとしたことを、絶対に許すな」


 それは、私の僅かな希望が打ち砕かれた瞬間だった。








 ――歯車が狂いだしたのは、いつからだったのか。

この時の私は、何も知らな過ぎたのだ。






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