闇夜に浮かぶ紅い月
・彼はヴァンパイア
静寂に包まれた月夜。
多くの生き物が寝静まるはずの時間には不釣り合いの物音が、私の意識を夢から現実へと呼び寄せる。
(今の……)
かすかに聞こえた物音は、どうやら下の階からのようだった。
寝ぼけた頭で状況を整理していく。
この家に住んでいるのは私を含めて二人。
二階の自室で現在進行中で寝ている私。
つまり、下から聞こえる物音は、私以外のもう一人にしか起こせないのである。
(もしかして!)
結論が出せた私は急いでベットから立ち上がり、パジャマの上からカーディガンを羽織り部屋を急いで飛び出した。
間に合え、と願いながらバタバタと階段を降りてすぐ、彼の姿を見つけた。
「れ、レオ!」
玄関にいた彼は今にも家を出ていく寸前といった様子で、それを止められることが出来た私から無意識に安堵の息がこぼれた。
「起こしたか」
「ううん、大丈夫。……出掛けるの?」
尋ねなくても答えはわかっているくせに、私はこうして何度も彼に問うのだ。
彼は私から何かを感じ取ったのか眉を寄せたけれど、それもほんの一瞬のことだった。
彼の表情はすぐにいつも通りの無表情に変わる。
ああ、と肯定した彼に、私はそっか、と返すことしかできなかった。