闇夜に浮かぶ紅い月
レオが夜中になると度々家を抜け出すことに気付いたのは、中学に上がってすぐのことだった。
ずっと前からすでにこうして出掛けていたのかもしれない。
一体いつからだったのか、何をしているのか、私は一切知らない。
玄関にかけた彼の手が止まる。それを見ていた私は首を傾げた。
「8時以降は、家から出るな」
門限、というものなのだろうか。
この一方的な約束も、私が中学に上がった頃にされたものだった。
「うん、わかってるよ」
私がそう答えると、彼の顔の緊張がとけたようにみえた。
だけどやはりその顔は無表情そのもので、まったく愛想などなくて、すぐまた背を向けてしまう。
――彼を遠く感じ始めたのはいつからだったか。
「お前はもう寝ろ。明日も学校があるだろう」
「うん。……あの、いってらっしゃい」
また、一人の夜がはじまる。
闇に包まれていく彼の後ろ姿をいつまでも目に焼き付けるように、私は彼がいなくなった後の玄関をずっと見つめ続けていた。