闇夜に浮かぶ紅い月




「固すぎるわ」


 どこにでもある長閑な昼の光景。

 そんな中、目の前に座る私の親友、橘智恵理(たちばな ちえり)の気分は不機嫌極まりなかった。


「え、ご飯、固かったの?」

「お馬鹿。違うわよ」


先週、出掛けたばかりの彼のことを話題が上がったことに驚く。

彼女から彼の話題が出るなんて珍しいなと想いながら、ウインナーを拾って口に入れ直した。


「まあ、ちょっとね。この間町で見かけたんだけど」

「そうなの?」


そんな話聞いてないぞ、と私は食い入るように智恵理の話に耳を澄ます。

「あの歌手のDIVA(ディーヴァ)と一緒にいたのよ」

「へ!?」


そんなまさか、と叫びたくなった。

歌姫という意味のあるDIVAの文字通り、世間を騒がす歌姫がこの町に来ていたこと自体が大変なことなのに、それ以上に彼と接点があるなんて聞いていない。

開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだった。

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