闇夜に浮かぶ紅い月
「何も聞いていないの?」
「自分から話すような人じゃないもん」
彼が自分のことを話してくれたのは、自分の正体を明かしたときぐらいじゃないだろうか。
何も知らなかったことに頬をふくらます子供っぽい私に比べ、少しつり目な顔にショートヘアを合わせ、楽しそうに笑う智恵理は幾分か大人にみえる。
「歌姫と並んでも引け取っていなかったわよ」
「あはは……。まあ、そうかもね」
二人が一緒に並ぶ姿を想像してみる。
智恵理の言うとおり、レオは世間でいう美形、の部類に入るのかもしれない。
けど、
「数えるぐらいしか会ったことないけど、変わらないわね。お兄さん」
鋭い智恵理の言葉に、内心焦ったことを隠すように苦笑いを返した。
彼はただ綺麗というのとは意味が違う。
その容姿は、彼が私を保護してくれた10年前から全くと言っていいほど変わっていない。
そう、彼には老いがない。
(まるで、ヴァンパイアみたいにね……)
吸血鬼は、餌である人間を魅了するために容姿端麗で老いがないいう。
それはまさに、その通りだと思う。
なぜならそれは、彼――レオがまさに、ヴァンパイアそのものだからである。
「まあ、後は表情があれば完璧ね」
「想像がつくよ……」
話によれば、歌姫が現れたのに大きな騒ぎにならなかった原因は、彼にあるらしい。
決して喜怒哀楽を見せない彼は、無表情を通り越して不機嫌ととれるような表情になるため、よく怖がられることも多々ある。
宝の持ち腐れとはこのことだろう。