闇夜に浮かぶ紅い月
「歌姫と知り合い……、かぁ」
ヴァンパイアという存在は、一緒に暮らしている私にもよく分からない存在。
言うならば、老いがなくて美形なぐらいで、普通の人間と変わらないんじゃないだろうか。
実際、私が知っているヴァンパイアはレオを含めればもう1人だけ。
彼らヴァンパイアが、どこで誰と何していようと、知ったこったない。
「本当、わけわかんないや」
「絢香が分からないなら、私はもっとわからないわよ」
ヴァンパイアと言えば、十字架やニンニクが嫌いってこと。
(レオは嫌いじゃないからこれはデマだな。……あ、にんじんは嫌いだった)
後、有名な言い伝えならば、吸血行為だろうか。
(そういえば一度もそんな素振り見たことないかも……)
気が付いたら、私達はいつの間にか他愛のない話をしていた。
智恵理はすでに購買で買ってきたサンドイッチを食べ終わり、私も弁当の中身が残るは大好物の卵焼きだけ。
好きなものは後に残して食べるのが私流だ。
「食べないならもーらいっ」
箸を卵焼きに運ぼうと伸ばしたその時、突如横から伸びてきた腕はそれを盗んだ。