さくら木一本道


(さくら)「たくっ… 鬱陶しいったらありゃしない」



朝の出来事を思い出してはブツブツ文句を言い、さくらは近道の田んぼ道を歩いて行くのだった。





30分歩いた頃、やっとさんちファームにたどり着いたさくらは、なにか徒歩以外の通勤手段はないものかと考えながら事務所に入った。

すると、タバコの煙を吹かしながら新聞を読む牧場長が、さくらに気付いて話しかけてきた。



(牧場長)「おう? なんだお前歩いて来たのか」



牧場長に話しかけられて、さくらは嫌悪な顔で言葉を返す。



(さくら)「……うるさいわねジジイ… どう来ようが私の勝手でしょ」



さくらの態度の悪さに腹が立っているわけではない、何故ならば自分も同じことを過去にやって来たからだ。

それでも軽い疑問程度の言葉をさくらに返した。



(牧場長)「……おい青井、俺…一応上司よ? 態度悪すぎじゃね?」



すると、さくらはさらに不機嫌オーラを全身に醸し出し、ペッ‼と唾を吐き捨てた。



(牧場長)「……えぇー…」



牧場長自身も、さくらが自分を嫌っているのは知っていたが、上下関係の社会の中で、これほどまでに感情を表に出す人間は初めてだった。

それも、いまだに恐れられる元暴走族総長の自分に…


とりあえず、自分をガンつけたまま目を離さないさくらをどうにか和ませようと、牧場長は思い出したようにさくらへ話を持ちかけた。



(牧場長)「……あっ、そう言えやよ、うちに使ってない自転車があるんだが……使うか…?」



それを聞いたさくらは、殺意に満ちた目をやっと解除した。



(さくら)「なにそれ、ちょっといい話じゃない」



牧場長は事務所に掛けてある時計で時間を確認し、新聞を畳ながらさくらに言った。



(牧場長)「まだ仕事始まるまで時間あるし、ちょっと見るか」



二人は事務所の外へ出て、隣に建っている牧場長の自宅の前で止まり、牧場長はそこでさくらを待たせた。

そして、自宅の裏に置いてあった自転車を、さくらの前へと持って来たのだった。



(牧場長)「見たところパンクも劣化もしてなさそうだし、普通に乗れると思うぞ」


さくらはまた嫌悪な顔をしながら話し出した。



(さくら)「…うわ… なんか渋い自転車ね…」

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