さくら木一本道
勇次は眠れないまま朝を迎えてしまった。
まだ昨日の夜のことが頭の中で繰り返されている。
(勇次)「どのツラで会えばいいんだ…」
本心は不安であるさくらに、何か勇気つける言葉でもかけたいのだが、昨日の話を聞いていたことを気付かれたくもない、
しかし、さくらに会えば顔に出てしまいそうだ。
ならば今日1日、さくらに会わずこのまま寝ていたかった。
だが…
(誠雪)「おーい!! お・き・ろ・よ!! 勇次ぃ~」
そんな思いは兄によって却下された。
(勇次)「兄貴…」
(誠雪)「お前が朝起きないなんて珍しいじゃないか!! せっかく、さくらちゃんが母さんとお婆ちゃんとで、一緒に朝ご飯作ってくれてるのに」
(勇次)「あぁ…」
(誠雪)「……どした?なんか変だな」
(勇次)「いや… なんでも…」
(誠雪)「まぁいいや、すぐ下降りてこいよ」
(勇次)「……やっぱ会わなきゃいけねぇのか…」
見ただけで、いや、実際には見ていないが…
とにかく、人の事が気になって寝れなかったのは初めてだった。
(勇次)「しょうがねぇ…」
勇次は覚悟を決めて下の居間へと向かう。
階段を降り、居間に入ると台所の扉が開いていて、いつもなら見ることの無いエプロンを着た女の子、さくらがいた。
(勇次)「……」
(さくら)「…あっ! 起きた!!」
さくらも勇次に気がつき、お玉を手に持ったまま振り返った。
(勇次)「お、おう… あのさ…」
勇次は流れのまま、その「勇気つける言葉」とやらを言おうと思ったが…
(さくら)「なによ?」
(勇次)「い、いや、やっぱいい…」
結局なにも言えず、さくらから目をそらし、居間のコタツ机に座り込んだ。
(さくら)「? 変なヤツ」
言えるわけがない、
「大丈夫だぜ!! 絶対元の世界に帰れるぜ☆」とか
「俺が協力してやんよ☆」とか
そんなセリフなんて、実際には恥ずかしくて言えないし、第一、勇次はそんなキャラじゃない、
今日は最初に会った時のように振る舞うのが一番いい、しかし、今の勇次にはそれが難しい。
(勇次)「ハァ…」
(誠雪)「どした? ため息なんかついて」
額に手をあて、ため息を吐く勇次を、誠雪が不思議そうな顔で話しかけて来た。
(勇次)「別に…」