さくら木一本道
そっとしておいて欲しい勇次は、誠雪にも目を反らすように答えるばかりだった。
だが、誠雪はそんな事を気にせず話を進める。
(誠雪)「オイオイ、しっかりしてくれよ、今日は田んぼの「荒起こし」やるんだろ? そのために俺は休日出勤代わってもらったんだぞ?」
(勇次)「荒起こし… あぁ、すっかり忘れてた…」
(誠雪)「とりあえず、午前中は勇次とさくらちゃんで薪割りしてもらうから」
(勇次)「お、オイ!! 何で俺とさくらが…」
(誠雪)「何言ってんだ、木を運んで来るのに軽トラ使うだろう、お前無免で運転するか?」
(勇次)「それは… で、でも、いきなりさくらに薪割りさせるのはどうかと思うぞ!!」
(誠雪)「バッカヤロ~ 田村家は「働かざる者、食うべからず」だ!! 午後は田んぼに行くからヨロシク!!」
(勇次)「……」
言い忘れていたが、誠雪はなかなかのドS野郎である。
涼しい顔と涼しい言葉で必ず言うことを聞かせる真性のドSだ。そして本人は悪気がないのだから尚更たちが悪い、
「ピュア」に「ブラック」
「ピュアブラック」とでも名付けておこう。
(誠雪)「ワハハハハハ!! いや清々しい、清々しい朝だ!!」
(勇次)「……ハァ…」
そんな兄を尻目に、勇次はため息と一緒に今度は肩が下がる一方だった。
(鏡子)「さあ、朝ごはん出来たわよぉ~」
(誠雪)「おお、さくらちゃんが手伝ったからか、いつもより旨そうに見えるぞ!!」
(鏡子)「さくらちゃんは料理が上手ねぇ」
(さくら)「イヤ、そんなこと…」
謙遜してさくらは手を横に振り、誠雪がさらにおだてる、そして勇次に話しをふるが、
(誠雪)「イヤ、絶対上手いって!! なぁ勇次!!」
(勇次)「……あ?… あぁ…そうだな… 机拭かないとな…」
そんなことに構っているほど、勇次の心に余裕はなかった。
(誠雪)「勇次?まだ寝ぼけてんのか?」
(勇次)「別に…」
(さくら)「?」
さすがにさくらも勇次の異変に気がついたようだった。
朝ごはんを食べ終え、鏡子とお婆ちゃんは鏡子の車で仕事に出ていった。
勇次、さくら、誠雪は、「薪割り」「荒起こし」のためにそれぞれの作業着に着替え、「駐車場」兼「庭」である表に集まる。
(誠雪)「よし、着替え終わったね? 俺は軽トラで木を取りに行って来るから、二人は薪割りをヨロシク!!」
(勇次)「おう」
(さくら)「はい」
二人に指示を言い渡したあと、誠雪は軽トラに乗り込み、アクセルを無駄に吹かし、下手くそな半クラッチで発進していった。
とりあえず、木が運ばれて来ないと作業も出来ないので家の前で待つ二人、
ただ沈黙が続く。
「……」
「……」
(さくら)「アンタさ…」
その沈黙を断ち切るように、ついにさくらが口を開いた。