さくら木一本道
車から降りた誠雪は、不機嫌な勇次をよそに指示を言い渡すのだった。
(誠雪)「よ~し!! それじゃあ薪割り始めようか 勇次が薪割りで、さくらちゃんはその薪を運んでね。俺はちょっと緊急で職場に行ってくるから居ないけどヨロシクね」
(さくら)「はい」
(勇次)「……」
指示を言い渡し、「自分は職場に出かける」と言う誠雪に、勇次はさらに不満を募らせるが、社命なら仕方ないと、文句は言わず誠雪を見送った。
それでも、昼前には帰ってくるとの事なので、それまでの辛抱と思い、とりあえず言われた通り薪割り作業を始める勇次とさくら、
まず、軽トラの荷台に乗った木を降ろし、降ろした木を勇次が斧で切って薪にし、
さくらは勇次が切った薪を拾い、家の裏にある薪専用に作った倉庫に薪を積み重ねていく。
人は集中すると時間が経つのが早いもんだが、「はっ」と何かの拍子に我に帰ると早く流れていた時間は突如遅くなり、「いつ終わるんだろう」という、憂鬱感に変わる。
作業を始めてから1時間でさくらはその状況に陥った。
(勇次)「オイ、さくら… 俺が切った薪が運ばれずに、こっちに溜まり始めてんですけど…」
(さくら)「うっ、うっさい!! 今運ぶわよ!!」
そう言って中腰になりながら薪を大量に運んで行くさくら、両脇に薪を抱え、がに股で歩いていく後ろ姿を見て勇次は思った。
(勇次)「……ゴリラだな…」
そして、それっきりいつになっても帰って来ないさくらが気になり、勇次は斧をその場に置いて、家裏の倉庫に向かった。
(勇次)「……」
しかし、そこには倉庫から尻だけを出し、薪の上にうつ伏せに寝てダレているさくらがいた。
(勇次)「何してんだテメェは!?」
(さくら)「え? あ!? ゆ、勇次!?」
思わぬ来客にあたふたとするさくら、そのさくらを指差し、勇次のツッコミが始まる。
(勇次)「来んの遅えと思ったら!! なに分かりやすくダレてんだよお前は!!」
(さくら)「ちょ、ちょっとした休憩よ!! 大体、昨日今日会った女の子にこんな力仕事させるアンタがいけないんじゃない!!」
何を言うかと思えば何とも身勝手な言い訳だろうか、そもそも、この仕事をさせているのは勇次ではなく、誠雪なのだが、
(勇次)「は!? なんで!? なんで俺のせい!? 関係なくね!? 薪運びを命じたのは兄貴じゃねぇか!!」
(さくら)「知らな~い 見てな~い 聞いてな~い」
とぼけた顔で「~ない」の三段活用である。
(勇次)「…このヤロ… 言っとくけどな!!ウチの兄貴はかなりのドSだからな!!」
(さくら)「は? 地球が破滅する? 何言ってんの?」
(勇次)「いや、何言ってんだお前!?」
(さくら)「それ位あり得ないって言ってんのよ!!」
(勇次)「そんなん分かるかぁ!!!」