さくら木一本道

(さくら)「なによ、人がせっかく傘持って来てあげたのに…」



さすがにやり過ぎたと思ったのか、傘を持ってここまで来たようだ。

そんなことより勇次は、違う世界から来たさくらが、ここまでたどり着けた事に驚いていた。



(勇次)「お前…!! 何で!?どうやってここに来たんだ!?」



(さくら)「「どうやって」って…普通に歩いて来たけど?」



(勇次)「じゃなくて!! 何でこの場所に来れるんだ!? お前は昨日来たばっかの別世界の人間だろ!!」



さくらは肩に傘を乗せ、くるくると回転させながら思い出したように言うのだ。



(さくら)「あぁ~…まだ言ってなかったっけ? 全部同じなのよ、私の世界とこの世界、ほら「プレシテ」も私の世界にあるし…」



さくらは、コンビニの窓ガラス越しにある雑誌を指差した。



(さくら)「あのファッション雑誌もそう、昨日、私あの雑誌買ったもん、写ってる人は違うけど」



(勇次)「……」



(さくら)「もう分かるわよね?ここら辺でコンビニがある所なんてここしかないでしょ?」



(勇次)「つまり…なんだ? 世界は違えど、お前は俺と同じ桜居町の住人で、ここら辺の地理にも詳しいと?」



(さくら)「そう言うこと、ここまで同じだと逆に恐ろしいわね~」



(勇次)「マジかよ… そこまで同じなのに、ここが違う世界だってよく分かったな」



(さくら)「……なぜかしらね? 桜の木からここの世界に放り出された瞬間にわかったわ、だって、まるで他人の家に居るような感覚だったんだから」



(勇次)「五感ってやつか…」



(さくら)「ついでだわ、アンタにちょっとついて来て欲しいところがあるの、ほら勇次傘持って‼行くわよ‼」



(勇次)「お、おう…」



そう言って勇次に黒い傘が渡された、偶然だろうがこれは紛れもない勇次の傘だ。



(勇次)「……」



(さくら)「適当な傘借りて来ちゃったけど大丈夫?」



(勇次)「あぁ、大丈夫だ、これは俺の傘だしな」



(さくら)「そ、なら良かった」











二人はコンビニから離れ、10分ほど歩いた閑静な住宅街にある、角に面した空き地に着いた。



(勇次)「なんだここ? 周りは住宅街なのに、ここだけ草がよく生えてるな」



(さくら)「昨日、アンタん家に着いたとき、私ちょっとだけ出掛けたじゃない?」



(勇次)「あぁ…そういえば」



確かに昨日、勇次の家に着いたとき、さくらはどこかへ出かけた。

ちょっとなどと言って30分も待たされたが、



(さくら)「私、ここを見に行ったのよ、私の世界だったら、私の家が建ってる場所だから…」



「もしかしたら…」と思い、さくらはこの場所へ訪れたのだ、僅かな可能性と期待を持って…

だが、結果は残酷だった。



(勇次)「こっちの世界じゃ、存在せずか…」


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