さくら木一本道
勇次は覚悟を決めたのか、右手をさくらの頭に乗せ、恥ずかしさをまぎらわすためにガシガシとかき回した。
さくらにとってはいい迷惑である、
だが、不思議と嫌ではない、
そして、勇次は二回か三回かき回した後、スッと息を吸って考えもつかない事を叫んだ。
(勇次)「お前にくれてやる!!」
(さくら)「ハァ!?」
(勇次)「辛くなったらここに来い‼ 寂しくなったらここに来い‼ 泣きたくなったらここに来い‼ 俺はお前をここに来させないために、俺はお前の力になる!!!」
(さくら)「え…?」
(勇次)「難しい問題を、テメェ一人で抱え込んでんじゃねぇよ…その… す、少しは頼れや…」
確かに、世界で見れば人ひとりなんざ小さなもので、そのひとりが抱える問題など、これまた小さな事だ。
この景色を見せて、お前の悩みは小さな事だと伝えても、さくらの不安をぶっ飛ばしてくれるかは分からない、力になると言っても、どこまで力になれるか分からない、
それでも勇次はこの景色を見せたかったのだ。
それでも勇次は力になりたかったのだ。
さくらの不安をなくして、本当の笑顔でいて欲しかったのだ。
(さくら)「……」
さくらは勇次の顔を覗き込む、
勇次は顔を見られないように、そっぽを向く。
(さくら)「……」
さくらは、さらに覗き込む、
(勇次)「……」
さくらが覗き込むほどに、勇次の顔は、赤くなっていく。
(さくら)「ぷっ…くく…」
(勇次)「?」
‐ドカッ!!!‐
(勇次)「てっ!!?」
さくらは勇次の肩を思いっきり殴った。
(さくら)「な~に臭いセリフ言ってんのよ」
(勇次)「なっ…臭いって… テメェ!!人がどんだけ恥ずかしい思いで言ったと…」
(さくら)「あぁ~そっかぁ、アンタ私の手下になりたいと言いたい訳ね?」
(勇次)「は?」
(さくら)「そう言うことでしょ?まぁ、アンタじゃ役に立つか分かんないけどね、言ったからには最後まで付き合って貰うわよ」
そう言ってさくらは、勇次に笑顔を見せた。
(さくら)「ま、頼りになるよう頑張って~」
(勇次)「くっ…このヤロ~…」
さくらは腰に手をあて、勇次を見て笑う、本当に憎たらしい顔だ。
だが、勇次は思う、
あぁ…さくら…
お前は本当に…
「とんだ怪力女」で、
「とんだ暴力女」で、
「とんだ自分勝手」な奴だ。
馬鹿だよな俺も…こんな奴のために…
でも俺は…
それでも俺は…
コイツのために何かしたいと思ったんだ…
この笑顔のために…
さくらの笑顔はまるで、無邪気に笑う子供のような笑顔だった。