さくら木一本道
(勇次)「今…7時だよな? 何で図書館が開いてるんだ?」
(勇次)「……謎だ…」
(誠雪)「どうした勇次?コーヒー飲むか?」
紙コップに入ったコーヒーを片手に、職員事務所の扉から現れた誠雪が、勇次の後で声をかけた。
(勇次)「いや、後にしとくわ」
(誠雪)「そうか」
誠雪はコーヒーをすすりながら、事務室の中へと消えていった。
(勇次)「…ん? 今、答えが通った気がしたが…」
どうやら誠雪が町役場職員の顔と、知り合いのコネを使って図書館を開けてもらったらしい、
おかげ様で勇次は半日、嫌いな活字をずっと読むことになった。
そして月曜日の本日は、薪割りによる肉体的な疲れ、慣れない活字の読みすぎによる目の疲れが溜まり、
現在のため息につながっているわけである。
(勇次)「眠い、疲れた、ダルい… 最悪だ…」
(?)「勇次勇次勇次ぃぃぃぃ~…」
(勇次)「?」
(?)「元気ですかー!!!」
勇次と同じクラスの茶髪の青年が、耳元で大声をあげた。
突然の出来事に勇次は耳を塞ぐことも出来ず、大音量を受け止める結果となった。
(誠雪)「ウッセーなバカヤロぉ!!!」
(龍巳)「ハハ、悪い悪い…でさ…」
この茶髪の青年は「尾川 龍巳(おがわ たつみ)」勇次とは小学校からの親友で家も近い。
龍巳は「元気」と「やる気」と「ノリ」が取り柄のヤツだ。
(龍巳)「今日お前ん家行くから」
(勇次)「は!?」
そして、話をいきなり関係のない方向へ持って行くのが特徴だ。
先に言っておこう、つまり「バカ」だ。
(龍巳)「良いだろ~? 暇なもの同士さ~」
(勇次)「龍巳、今日は部活じゃないのか?」
(龍巳)「今日は休みなんだよ。暇だしさ、な? 良いだろ?」
(勇次)「……」
良いわけがない、今、勇次の家には居候のさくらが住んでいるのだ。
そんな状況を他人に見せるとどうなるか分かったものではない、とにかくここは断るしかない、
(勇次)「き、今日は無理だ…」
(龍巳)「何でだよ?」
(勇次)「教えねぇ…」
(龍巳)「どうしてもか?」
(勇次)「どうしてもだ…」
(龍巳)「……ほ~…」