さくら木一本道
勇次の制服の襟を、多恵箕先生が泣きそうな顔で掴み、その勢いで首が締まっていかにも息苦しそうな声を出してしまった。
(多恵箕)「勇次君は…勇次君は聞いてくれるわよね? 先生昨日ね、パーマをね… パーマをねぇ~…」
今にも泣き出しそうな声で多恵箕先生は勇次の腕にしがみつく、
こうなると話がややこしくなるので、勇次はその自慢の髪について、触れてあげることにした。
(勇次)「に、似合ってますよ? その髪型」
(多恵箕)「でっしょ~? いい美容師さん見つけたのよ、このカール具合も最高!!」
(勇次)「そうッスか…」
(多恵箕)「…て、そんなことじゃなくて、はい勇次君、これ大学の資料」
(勇次)「え?」
(多恵箕)「もう二年生なんだから、それなりの進路決めなきゃね、対策は早い方が良いから」
(勇次)「はあ…」
多恵箕先生は別に、生徒に嫌われているわけではない、
生徒一人一人とちゃんと向き合い、本当に生徒の事を第一に考えている先生だ。
そして、その教師とは思えない性格は、むしろ気軽に話かけやすく相談が出来やすい、非常に生徒から信頼されている先生である。
(多恵箕)「また近くに三者面談があるから、そのときまた聞かせてね?」
(勇次)「はい…」
(多恵箕)「じゃ、二人とも、気を付けて帰るのよ~」
(龍巳)「おっスッ!!恵箕(えみ)ちゃんさいなら!!」
(多恵箕)「ふふ… じゃあね龍巳くん」
多恵箕先生は手を振りながら教室を出ていった、勇次は渡された大学の資料を見る。
(勇次)「……」
(龍巳)「さ、今度こそ帰ろうぜ勇次」
(勇次)「お、おう」
勇次と龍巳は、帰り道を並んで歩く、
(龍巳)「勇次はさー、進路どうするの? 進学? 就職?」
(勇次)「アウト・オブ・眼中だな(眼中にない)」
(龍巳)「だろうな、高2で進路なんて普通のヤツは考えねぇよな」
(勇次)「でも龍巳はある程度決めてんだろ?」
(龍巳)「あぁ、つっても大学に行くっていうことだけどな」
(勇次)「そこまで決まってれば大したもんだぜ」