さくら木一本道

(さくら)「……私ってさみしい女だわ… 一人とぼとぼ下校して…」



ミチコの言った通り、恋愛の一つでもしておけばなにか変わっただろうか、それとも、部活でもやればなにか変わるだろうか、

また考え出すと馬鹿らしくなってくる。



(さくら)「私にだってやりたい事や目標があれば……あっ‼ 私にも目標があった‼ 今日は雑誌の発売日だ‼ 絶対発売日に買わないと‼」



何を叫び出すかと思えば、何とくだらない目標だろうか、

もはや目標と言えるのかも分からない。



(さくら)「それより腹が空いたわ、コンビニで雑誌ついでに何か買って…」



(さくら)「……」



叫び出したかと思えば、今度は黙りこんだ、

そして、何かを思い出したかのように鞄を外側から触り出した。



(さくら)「……あっ!…… 弁当!!」



昼に手をつけなかった「ネギ味噌弁当」が、鞄の中に残っていることを思い出したようだ。



(さくら)「朝も残して昼も残すとお母さんうるさいしなぁ…」



かと言ってどこかに捨てるのも忍びない、

となると、自分の胃袋に叩き込む以外に方法はないのである。



(さくら)「公園で食べようかしら……いやっ!! 誰かに見られる可能性が…」



学校に止まっていても仕方がないので、とりあえずさくらはコンビニで目的の雑誌を買い、家に帰りながらの道中で、弁当を食べられる場所を探す事にした。

本来は学校近くの商店街からバスに乗り、そのまま家近くまで帰るのだか、今日はその商店街を通りすぎて歩いていく、最悪は途中のバス停で乗り込めば良いのだ。



しばらく歩いて一キロ弱ぐらいの場所に来ただろうか、

歩行者用の細くて赤い橋と、自動車用の大きな橋が平行してかかっている川に着いた。



(さくら)「この橋バスで毎日通るけど、よく見るとけっこうボッロイわねー…」



そうつぶやき、赤い橋を渡る途中から、下を流れている川を覗いたその時、



‐ビュウゥゥゥゥ!!!‐



川下から川上に向かって強い風が吹き抜け、その風を避けるために、川上の方へと体を向けた。

すると、強い風で葉を揺らしている木々の奥に、崖に立っている建物がさくらの視界に入ったのだ。



(さくら)「……なに? あれ…」



その建物は崖から飛び出していて、地面の無い床下からは、長い柱が地面に向かって伸びている変わった建物だった。

例えるなら、「清水の舞台」のような造りと言えばイメージが湧くだろうか、

木々が邪魔をしてよく見えないが、その建物に向かう道に「赤い鳥居」のような物が見える。

鳥居があるということは、あの建物は何かの神社ということになる。



(さくら)「あんなところに神社があったんだ…」



神社を見て何を思ったのか、あごに手をあて考え込むさくら、

まさかとは思うが、そのまさかだった。



(さくら)「……ヒマだし、いってみようかしら、人も居なそうだし… 気兼ねなく弁当も食べられそう」



ほとんどの神社には、参拝客のためにベンチが所々に併設されているものだ。

神聖な神社境界で弁当を食べるのも気が引けるが、かと言って食べてはいけないというルールもない、

神社によっては、一部の土地を公園として開放しているなんてのもざらにある。

さくらは逆にそこを狙ったのだ。


こんな田舎神社に立ち寄る物好きな高校生もいないだろうし、

ましてや熱心な信仰信者もいないだろうし、


つまり人の来ない神社は、隠れて弁当を食べる場所に最適だったのだ。


そうと決まればさくらの行動は早い、

さくらは赤い橋を渡りきってすぐの横断歩道を渡った。

そこからが神社への入口だったからだ。






だが、この寄道が間違いだった。



このあと、さくらは文字通り「天地がひっくり返る」出来事に巻き込まれる。

それはさくらの人生にとって、

悔やんでも悔やみきれず、忘れようにも忘れられない出来事になってしまうのだった。






かくして、横断歩道を渡りきったさくらの前に、石で出来た大きな鳥居が現れた。

その横には錆びついた看板がある。



(さくら)「…はな…かお…いなり…じんじゃ…?」



錆びついてよく見えないが、「華顔稲荷神社」と漢字で書いてある。

そんなことを気にしてもしょうがないので、無視して中へ進もうとすると、「石の鳥居」の次に「赤い鳥居」が現れた。


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