さくら木一本道

目の前の横断歩道の信号が赤なので、勇次と龍巳は歩みを止める。



(龍巳)「てかさー、なんで「恵箕(えみ)ちゃん」はお前に大学の資料を渡したんだ?」



答えは簡単だ、

二年の始まりに参考程度の進路希望を描いたのだか、

各々ある程度の進路希望があるところで、勇次だけは白紙で提出したのだ、

それだけ勇次は、やりたい事や将来の希望というものがないのである、だから多恵箕先生は勇次の事を気にかけているのだ。

だが、そんなことを龍巳に言ってもしょうがないので、勇次は、はぐらかす形で話題を変えた。



(勇次)「……さぁな、てか「恵箕ちゃん」て… お前多恵箕先生の事バカにしてんだろ?」



(龍巳)「ちげ~よ~(笑) だってさー「山 多恵箕(やま たえみ)」なんて変な名前だろ? だからちょっと改名して「山田 恵箕(やまだ えみ)」にして、そして愛称を込めて「恵箕ちゃん」ってわけだ(笑)」



(勇次)「あぁ、それをバカにしてるって言うんだ」



信号は青になり、横断歩道を渡り始める二人、



(龍巳)「そうか?そんなつもりはないんだけどなぁ、そっかぁ…よし分かった、分かったよ勇次」



(勇次)「?」



(龍巳)「俺は今日勇次ん家でマンガを読み明かすわ」



(勇次)「まったく関係ない話になったなオイ!!」



出た、龍巳の伝家宝刀「話題の急ハンドル」の炸裂である。



(龍巳)「いや~ 久々だぜ勇次ん家!!」



(勇次)「ハァ… ついていけねぇよお前のペースには…」



(龍巳)「なんだよ?俺たち親友だろ? 気合い出せよ!! もっと熱くなれよ!!!(松岡修造風)」



(勇次)「うるせぇバカヤロォ!!!」



龍巳のバカなモノマネに、勇次の怒声が響き渡った。

そして場所は移り、龍巳が暮らす尾川家の前に着く二人だった。



(龍巳)「俺、荷物置いてくるから待っててくれ」



(勇次)「あぁ」



‐ガチャ… バタンッ!!‐



(勇次)「ハァ…」



勇次は自分の家が建っている方向に体を向ける、勇次の家はここから目と鼻の先なのだ。



(勇次)「もう俺ん家まで近い… マジでどうすっかな…」



家にはさくらが居る、もし居候しているのが龍巳にバレたら、龍巳は他の奴等にさくらの事を言いふらすかもしれない、

それに怖いのはそれだけではない、



(勇次)「アイツの事だ、絶対変な誤解する…」



どうするかと頭を抱えていると、勇次はなにか思い浮かんだようにポケットを漁り始めた。



(勇次)「そ、そうだ、さくらに連絡してどっかで時間をつぶしてもらって…」



勇次はポケットからみつけた携帯を取り出し、そして自宅に電話をかける。



‐プルルルルル… プルルルルル…‐



(勇次)「……」



‐プルル… ガチャッ…留守番電話に接続します…‐



(勇次)「出ねぇ…」


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