さくら木一本道
しばらくして、さくらは田村家に戻って来た。
そのまま台所へと向かう、
(さくら)「鏡子さん買って来ました」
買ってきた醤油を机に置くと、鏡子はニコリと笑い、グリルに魚を入れながら言うのだ。
(鏡子)「ご苦労様さくらちゃん、少ないけどお釣りはとっといてね」
(さくら)「ありがとうございます…」
冷静になると、さすがに醤油を買って来ただけで、こづかいを貰うのは気が引ける、
せめて、700円分の仕事はしておきたい、
(鏡子)「さぁ、残りの夕飯作りましょうかね」
(さくら)「じゃあ私も…」
(鏡子)「今日は醤油買って来てくれたからさくらちゃんは休んでて、あと魚焼くぐらいなだけだから」
(さくら)「わ、私がほかにやることは…」
(鏡子)「今日は醤油のおつかいでおしま~い、夕飯が出来るまで待っててね?」
(さくら)「……わかりました」
こづかいをあげると言ったのは鏡子なのだから、さくらに一切の非はないが、それでも罪悪感というものが出てしまう、
では、居間で食事の準備をしようと、台所から居間を覗くと、お婆ちゃんが机をフキンで綺麗に拭いている、これまたやることがない、
何となく居場所がなくなったさくらは、夕飯が出来るまで、これまた何となく二階のベランダから外を眺める事にした。
二階に上がり、勇次の部屋からベランダへ出ると、春の夜は肌寒さを感じる、昼間にアイスを食べていた自分が嘘のようだった。
(さくら)「暗いわね… ほとんどの家が電気ついてないじゃない」
つぶやいたその時、さくらの頬に温かい何かがピタリと付いた。
(さくら)「な、なにッ!!?」
(勇次)「ここら辺は爺さん婆さんしか住んでねぇんだから当たり前だろ、ほれミルクティー」
(さくら)「何だ勇次か…」
先ほど頬に当たった温かい物は、今勇次が持っている缶のミルクティーだったようだ。
さくらはそのミルクティーを受けとり、手を温めるように両手で握りしめた。
(勇次)「上を見てみろ、暗い代わりに田舎ながらの光景だぞ」
そう言って勇次が上を指差すので、さくらも上を見上げると、夜空に星が光り輝いている、
周りに明かりがないため、星空が良く見えるのは結構だが、星空を見て観賞に浸る趣味はさくらにはない、
(さくら)「星なんか見たってどうしようも無いわ」
(勇次)「それを言われたらおしまいだけどよ…で? 今日はどうだった?」
(さくら)「何がよ?」
(勇次)「図書館だよ図書館、何か分かったのか?」
(さくら)「全く無いわ」
(勇次)「そうか…」
(さくら)「図書館のパソコンでも調べてみたんだけど… 情報が少なくて」
(勇次)「……」
(さくら)「……」
(さくら)「フンッ!!」
‐カシュッ!!!‐
さくらは無言を断ち切るように勢いよくミルクティーを開けた。
(さくら)「ンクッ!!ンクッ!!ンクッ!!」
そして、勢いよくミルクティーを飲み干した。
一応言っておくが、ミルクティーは喉を潤す飲み物ではない、何か違うものと勘違いしているのではないだろうか、
(さくら)「ぷはぁ!! クゥーーー…………ゲプッ…」
(勇次)「お前はおっさんか…」