さくら木一本道
そんな、漫才のようなことがありつつ、三人は衣服コーナーに着いた。
さくらはというと、勇次のゲンコツで冷静さを取り戻し、殴られた頭部を両手で擦っていた。
逆に鏡子は、その場で興奮を抑えるために大きく深呼吸をしている。
(鏡子)「スゥ…フゥー… よし!! 行くわよ!!」
(勇次)「気合い入ってんな…」
(鏡子)「だって~ 勇ちゃんや誠雪が生まれて来てくれて、もちろん嬉しかったんだけど… 母親としては、娘と一緒にショッピングするのは夢なんだも~ん」
(勇次)「夢ねぇ…」
(鏡子)「今日は勇ちゃんには頑張ってもらうわよ~」
(勇次)「ヘイヘイ…」
あなたが張り切らなければ、勇次も頑張る必要はないとも思うのだが、
(鏡子)「じゃあ行きましょうかさくらちゃん!!」
そう言って、鏡子はさくらの手を強引に引っ張って行くのだった。
(さくら)「わぁ!? そんな引っ張らないでキョンちゃん!!」
猛スピードで衣服コーナーに入っていく二人の後を、勇次はトボトボとなるべく離れるようについて行った。
(勇次)「……最悪な休日だ…」
そう言葉を吐きながら。
衣服コーナーに入ると、様々な客が見える。
「子供を連れた若い夫婦」「老夫婦」「カップル」「サラリーマン」
衣服を見せあったり、自分のサイズ合った服を探したりと、それぞれ様々な買い物をしている。
しかし、自分の顔が隠れるほど服を抱え、フラフラと歩く人間を勇次は初めて見た。
だが、勇次はその人物を良く知っている。
何故なら、
(勇次)「何やってんだよ母ちゃん…」
鏡子だからだ。
(鏡子)「さ、さくらちゃんに… 試着してもらおうと思って…」
(勇次)「こんなにか!?」
(鏡子)「足りないくらいよ」
(勇次)「……」
勇次は呆れてものも言えない、
(鏡子)「ほら、勇ちゃん持って!!」
そして、鏡子から顔が埋まるほどの衣服を渡された勇次であった、
これだけでもかなりの地獄である。
さらに鏡子は、さくらを探しながらその名を呼ぶ、
(鏡子)「さくらちゃ~ん!! さくらちゃ~ん!! あっ!! いたいた!!」
鏡子はさくらを見つけ、近くに呼んだ。
それに気づいたさくらは、親鳥に呼ばれる小鳥のように走って来るのだった。
(さくら)「何? キョンちゃん?」
(鏡子)「服、試着してみよ?」
(さくら)「うん…って、こんなに!?」
(鏡子)「さぁ!! 試着室でファッションショーよ!!」
鏡子はさくらを連れて試着室に向かった。