さくら木一本道
(鏡子)「はい!! 入ってさくらちゃん、まずはコレとコレね」
試着室に着くと同時に、さくらは洋服とともにその部屋へと放り込まれた。
(鏡子)「着替えたら開けて見せてね~ あ、このブーツも履いてね」
まさか、ここまで鏡子が暴走するとは思っていなかったさくらは、閉じられた試着室の中で、肩を落としながらため息を吐くのだった。
(さくら)「ハァ… 長くなりそうね…」
しかし、赤の他人であるさくらに、鏡子は服を買ってくれると言うのだから、それはさくらにとっても願ったり叶ったりである、
であるが故に、こういう面倒な事は断りづらい、
そもそも「面倒」だとかと、こういう感情は抱いていけないとは、さくらも分かってはいるが、でも面倒なものは面倒なのだ。
しばらくして、着替え終えたさくらが試着室から出てきた。
(さくら)「ど、どうかな…?」
さくらは恥じらいながらも、着た洋服を見せる。
(鏡子)「う~ん…あんまり派手な洋服は、なんかさくらちゃんじゃ無くなっちゃうわね…」
(さくら)「私…ブーツなんて始めて履いたわ…」
(鏡子)「似合わないわけじゃないのよねぇ… どう思う勇ちゃん?」
鏡子は洋服に埋もれた勇次に話しかけた。
勇次は洋服に埋もれながらも答えた。
(勇次)「……見えん」
そりゃそうだ。
(鏡子)「もう!! 横向けば見えるでしょ!!」
そう言って鏡子は勇次の頭を掴み、横に思いっきり回した。
‐ボキボキボキッ!!‐
(勇次)「イデデデデッ!!!」
(鏡子)「ほら!! しっかり見て!!」
勇次は首の痛みに耐えながらも目を開いた。
(勇次)「……おぉ…」
「驚いた」
勇次の率直な感想はそれである。
さくらの普段の格好と言えば、制服かジャージ姿、時々ツナギ(作業服)、それ以外の服なんて新鮮でしかないのだ。
(さくら)「「おぉ…」って何よ」
さくらは勇次を睨む。
ここで余計な事を言うと、そのいかにも固そうなブーツで蹴られそうなので、勇次は当たり障りのない言葉を選んでいくのだった。
(勇次)「い、いや… 結構似合ってるぞ、ただ…」
(さくら)「ただ?」
(勇次)「「ギャル」っぽいと言うか…なんと言うか、さくらではなくなってるな」
(鏡子)「なのよね~…」
勇次のコメントに鏡子が相づちをうつ、
(さくら)「あなた達の中の私って、どんなイメージなのよ…」
ちなみに、勇次の中でのさくらのイメージは、
二の腕や太ももは男のように太く、ムッキムキの筋肉質で、パンパンに膨らんでいるイメージだ。
そうでなければ、あんな剛拳や怪力は出せるはずがない、
はずがないのに、
イメージとは違い、さくらの体は細く、強く引っ張るだけで骨が折れてしまいそうなほど、か弱そうな体つきをしているのだ。