さくら木一本道
-ドスンッ!!-
(さくら)「んぎゃッ!!」
下着事件から翌日の日曜日、
季節外れの暖かい風に、残り少ない桜の花びらが舞い散る朝のことである、
その少ない花をさらに散らす勢いで、さくらの頭突きと叫び声を共に、華顔神社の一本桜が大きく揺れた。
(さくら)「いったぁ~…」
(勇次)「おい… やっぱこの方法は無理だろ…」
桜の根元で倒れこみ、痛みを耐えるさくらに、勇次はあきれた顔で近づいた。
(さくら)「っ~…うるさいわね、物は試しよ…」
そもそも、なぜ朝から二人して華顔神社に来たかというと、
それは、朝ご飯を食べ終えた頃の話まで遡る、
(さくら)「勇次、華顔神社に行くから、アンタも来なさい」
(勇次)「華顔神社? 何でまた…」
(さくら)「いいから私が行くと言ったら行くの、跳ねるわよ」
(勇次)「は? 何を跳ねるんだ?」
(さくら)「首を」
(勇次)「……」
(誠雪)「華顔神社もいいけど君達…」
朝からおぞましい言葉を吐くさくらに、勇次が言葉を失っていると、
白飯の入ったお椀を持ったまま、誠雪が話しかけた。
(誠雪)「今日は畑仕事があるのを忘れるなよ」
前回は雨が降って中止となった、「荒起こし」という水田の作業だ。
もちろん今回も、「働かざる者食うべからず」の田村家家訓に従い、さくらも作業を手伝うことになっていた。
(誠雪)「まぁ、1時までに帰って来てくれればいいけどね」
(さくら)「大丈夫です、それまでに帰って来ますから、ほら勇次!! 行くわよ!!」
(勇次)「ハイハイ…」
そして、現在にいたる。
つまりはさくらの思いつきで、
「一本桜に体当りをすれば、元の世界に帰れるのではないか?」
それを実証したいがために、勇次も華顔神社に連れてこられた、ただそれだけの理由なのである。
勇次はさくらの手を掴み、軽い体をヒョイと引っ張り上げた。
(勇次)「大丈夫か? うわ、スゲー土ほこり」
勇次はさくらの服についた土ほこりを払い落とす、
(勇次)「ツナギを着てるからってこれはヒデェ汚れ方だぞ… オイ、聞いてるのか?」
そんな勇次の言葉を無視して、さくらは手帳に何かを書いていた。
(勇次)「……何書いてんだ?」
(さくら)「帰るための手掛かりを忘れないために、気になった資料や経験を全部この手帳に書くことにしたの」