さくら木一本道

(勇次)「安心しろ、俺らが牛の糞や鶏の糞をさわることはねぇから」



(さくら)「嫌嫌…え? 何で?」



勇次はさくらの襟足を離し、また歩き始める。



(勇次)「俺ん家は化学肥料を撒くからな、余程の事がない限り牛の糞とか撒く事はねぇよ」



(さくら)「よ、余程の事?」



さくらは「糞」という言葉を敏感に反応する。

余程嫌らしい。



(勇次)「「土壌改良」ってとこだ、何年か一回の春か秋に入れる位かな」



(さくら)「ほっ…」



さくらは肩を撫で下ろす。



(勇次)「……そんなに嫌か…」



(さくら)「ウンコなんて嫌に決まってるでしょ!!汚い!!」



(勇次)「牛糞(ぎゅうふん)や鶏糞(けいふ)は汚ねぇ物じゃねぇぞ、ちゃんと発酵させてだなぁ…」



(さくら)「んな事は分かってんのよ!! テレビで何回も見たわ、「有機肥料」ってやつでしょ?」



勇次は、テレビの知識ごときで知ったかぶりをするさくらが、ちょっとだけ気に食わなかった。

なので、ちょっとだけ意地悪な問題をしてみた。



(勇次)「ほほ~う…テレビでね… じゃあ「有機肥料」と「無機肥料」の違いって分かるか?」



(さくら)「そんなの簡単よ、「有機肥料」はさっき言った「牛糞」とか「鶏糞」とかの自然の肥料でしょ? 「無機肥料」は無機な肥料よ」



(勇次)「ま…まぁ…合ってるけど間違ってんな…」



(さくら)「?」



(勇次)「「有機肥料」は確かに自然の肥料で、無機肥料は主に化学肥料の事だ、「有機肥料」は燃やすと炭素が出てくるんだが、「無機肥料」は必要な栄養だけを取り出した肥料だから炭素が出ないんだ」



(さくら)「ふ~ん…」



(勇次)「だから、有機肥料と無機肥料の違いは炭素が出るか出ないかだ、まぁ 出るのもあるけどな」



(さくら)「あっそ、別にそんな農業の事知っても意味ないし~」



(勇次)「そう言われちゃお終いだが…」



やはり、勇次の意地悪ごときでは、さくらの精神を揺るがすことは出来なかった。

してやった感がなくて、つまらないものだ。



(さくら)「第一、農業は「ダサい」か「年寄り仕事」のイメージしかないのよ、「稼げる仕事」って感じでもないし、農業やってもメリットが無いわ」



(勇次)「まぁ… 農業は「6K産業」だからな…」



(さくら)「6K産業?」


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