狂暴わんこのひとり占め。
▽散歩です。
「うっはぁ、いい天気っ!」
「…そうね」
本当に、今日は雲もほとんど無くて ずっと向こうまで青空が広がってる。
すごく気持ちいい。
太陽の光が暖かくて、嫌な事なんて忘れてしまいそう。
「んじゃ、行こっか♪」
…この可愛い笑顔を見れば、現実に引き戻されるんだけどね。
「灯夜…どこ行くつもり?」
「ん? どこでも!
紗希が行きたいとこっ」
「じゃあ…ショッピングモールでも ブラブラする?」
「おっけー♪」
奴はよほど機嫌がいいのか、昨日から ずっと笑顔だ。
まぁ何か企んでいるのだろうけど。
何かと話しかけてくる灯夜に そっけなく返事をしながら、駅へと向かった。
徒歩十分で着く最寄り駅には、さほど人はいなかった。
「…ねぇ、灯夜って名前は捨てたって言ってたわよね?」
電車を待っている間、気になっていたことを話してみた。
「うん?」
「それって今みたいな詐欺をするため?」
「詐欺って人聞き悪っ!」
また奴はケラケラと笑う。
「うん、よく分かったね?」
「だって、名前さえ分かってたら、ハメられた女たちが追ってくるでしょう」
私はそんな面倒なこと、しないけど。
寧ろ早くいなくなってほしい。
「ま、それが俺の生き方だから♪
帰るとこ無いのはホントだし。
あ でも今の名前は一生大事にするかもなぁ…」
「え? どういうこ……」
「紗希、電車来たよ!」
意味深な発言に、聞き返そうとしたけど、電車が来てしまった。
灯夜に促され、私は渋々乗り込んだ。