鬼守の巫女・番外編

「……遅いね、魏戎」

その小さな呟きに、そっと彼女を振り返ると、夕焼けのオレンジの光が彼女の横顔を照らしていた。

それを暫く何も言わないまま見つめていると、心臓がドクドクトと鼓動を速めるのを感じる。

「……凪」

小さく名前を呼ぶと、彼女は僕を窺う様に顔を上げた。

その瞬間、そっと彼女の唇に……自分の唇を重ねる。

それはほんの、瞬きをするほどに一瞬の事で、すぐにハッと正気に戻ると慌てて彼女から距離を取った。

……どうしてこんな事をしてしまったのか……僕にも自分の考えが分からない。

彼女は驚いた様に目を見開いたまま、まるで彫刻の様に動かなかった。
< 23 / 32 >

この作品をシェア

pagetop