この涙が枯れるまで

僕は安里の話をどこまで理解して聞いていただろうか。


『……お前達何で別れたの?』




『あいつの中には、優との思い出が詰まってたからだよ。俺は優を越える事ができなかった。だから別れたんだ』


聞こえるのは、朝との話だけ。
周りの雑音など耳に入らない。


『……俺にはナナがいる』



『うん…そうだよな…
お前ら仲良さそうだもんな。ごめんな、優。今ごろこんな話をして』




『……百合は…今彼氏いるの?』




『いないよ。まだ優が一番なんだろ。多分』




ドクン…
安里の一言で、僕は完全に紅い月に蝕まれた。
黒く覆われた僕の心は、出口の見付からない、暗い世界になっていた。




『悪いな…優。
でもお前は広瀬が一番だろ?』



『お…う』



『それでいいんだって。自分の気持ち見失うなよな。広瀬が一番なら、広瀬を幸せにすればいい。』




『ああ……』




『俺…そろそろ帰るわ。 呼び出してごめんな。じゃあな…』



『…おお』




安里は僕の前から居なくなった。




僕は本当にナナが一番?僕は自分の心にさえ、疑いを感じた。
今は、ナナより百合の方が心配だった。
百合は、僕の一番最初に愛した女性だから。

百合との思い出は大切だから。

僕は抜け殻のようになった。
出てくる言葉はひとつだけ。


百合。
ただそれだけ。




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