この涙が枯れるまで


『百合…そろそろ帰ろっか…』



『うん…』



僕達はゆっくりと小さい丘を下りて行った。
長く長く百合を感じるために、少しだけ歩幅を小さくした。
百合との時間を無駄にしないように。
僕は百合を駅まで送って行った。


『じゃあね、百合』



『うん、また明日ね』



『ばいばい』



『ばいばい』


僕は笑顔で手を振った。

百合も笑顔で手を振った。
電車が走り出すと、僕の笑顔が一瞬に消え、涙に変わる。

百合も同じだったね。
僕だけじゃなかった。

僕は帰って勉強をしはじめた。
百合も頑張っているから、僕も頑張る。

必死になって勉強をした。
でもすぐ問題を解いている手が止まってしまうんだ。
ノートに涙の跡が残っている。
そこだけ湿っているんだ。
百合の事を考えるだけで、涙が出てくる。



大丈夫…
僕は寂しくない。
自分に言い聞かせる。

僕は百合にどれだけ幸せを与えられたかな。



どれだけ僕を感じてくれたかな。



僕が百合を想うだけ、百合も僕を想って欲しい。

もうあと少しだ。


僕と百合の時間は。




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