シルバーウルフ -Is this love?-
俺は左手でチャイニーズ嬢の右手を引いて歩み進んだ。



スクランブル交差点の角の百貨店。



開店前のシャッターは閉まっている。





手を離した。手の平の汗に5月の風が当たった。冷やかに感じた。





俺はその冷たい左手の腕時計を見た。


“午前7時”


あと、1時間もすれば嘘みたいにラッシュアワーで人が溢れる。

その人混みにチャイニーズ嬢は消える。






上着のポケットから札を取り出した。


「30ある。しばらくは大丈夫だろう。」


俺は告げた。そして、赤いマーチへ向かった。


乗り込む前に振り向いた。


寝不足の空気が漂う繁華街に似合わない杖を持った盲目の女。


うつ向いていて長い髪が邪魔をして表情を伺えない。



俺は構わず運転席に着いた。



“1度目”8つ目のブースでリボルバーを降ろした。


“2度目”橋から棄てなかった。


殺し屋が命を2度も見逃した。


オマケに最後に渡した30。


こういうのも“泥棒に追い銭”って言うのか?


俺は頭によぎった。



そして、アクセルを強く踏んだ。



甲高い金属音がした。






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