溺愛キング
反射的に立ち上がり思いっ切り矢耶の名前を叫んだ。

狭い風呂場に俺の声が響いた。

膝下までしかないお湯が勢いよく立ち上がったことを表していた。

俺はすぐに飛び出し、体もろくにふかず、パンツとスウェットを履こうとしら、"バタン"と玄関から音がした。

はっ?!

ほんとに出て行ったのか?

ねぇよ、ねぇよ、ねぇよ!

何やってんだよ!

……何やってんのは俺だ。

早く行かねぇと…

焦ってうまく履けねぇ。


上半身裸のまま外に出た。

どこを見渡しても矢耶の姿はなかった。


『くそっ!』


今は寒さとか気にしてる余裕なんてなくて、急いで出たため左右違う靴を履いていた。

いったん部屋に戻り、携帯を取った。

服を着ながら翼に電話した。


『翼、矢耶が居なくなった』

「…ぁ?……んだよ、藍飛かよ、今邪魔すんなよ。海亜となぁ…」

『うっさい。お前の事情なんて知らねぇ。それどころじゃねぇんだよ。矢耶が居なくなった。探せ』

「……はぁ?!矢耶がぁ?!お前何してんだよ!」

『話はあとだ。いいから探せ。俺はバイクで探すから。後は頼んだ』

「はっ?おっおい!!藍飛っ!!」


一方的に電話を切りバイクのカギを握りしめ部屋を出ようとした。

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