溺愛キング
「海……亜…」


翼がやっとの思いで出した言葉はあまりにも弱々しいものだった。

振り払われた腕をもう一度伸ばして海亜に近付く翼。

元から気の強い海亜だが今日の様な海亜は初めてだ。

矢耶が家出するなんて想像もしなかったことだから。

その様子を俺はただ黙って見ていた。

その時、掴まれていた胸倉がさらに締められた。

グッ――――……


「藍飛、分かってんの?返事がないけど…」


翼なんて視界にすら入れていない海亜は、まだ俺を睨んでいる。


『わ……かった。分かってる。苦しいから離せ。こんなことしてる時間が…もったいないだろ』


半ば強引に海亜を離した。

少しよろけた海亜。


「海亜、大丈夫か?」


翼は海亜を抱き留めると


「藍飛、お前なぁ…今回はどんな事情があろうともお前が悪いと思う。しかも、海亜に八つ当たりすんなよ。俺キレるぞ。分かってんのか?ただでさえ、矢耶が居なくなって頭が狂いそうなのに、お前、ほんと反省してんのか?」


頭が狂いそうなのはこっちだ。

って、翼にキレても意味ねぇな。

あぁ、ほんと俺、何やってんだよ、情けねぇな。
< 162 / 269 >

この作品をシェア

pagetop