気まぐれ短編集
骨ばった手の綺麗な指先がボタンを押した。
「どうぞ座ってて」
頭に降ってくるやわらかな声に顔を上げると、大人っぽい雰囲気の男子がニコッとしていた。
ふわり、とミントみたいな匂いがする。
あ…この人…。
確か…クラスの女子が三年生にかっこいい先輩がいるって……
この人を全校集会のときに指していた気がする。
まじまじとその人の顔を見ていたら、その人を呼ぶ声がした。
「ヨウ!前のほうに行っとこうや」
坊主頭の小柄な男子が片手を挙げて言った。
ヨウ……………ヨウ?
「おう、待って」
ぼけっと『ヨウ』と呼ばれた先輩を見ていると、彼は私に視線を合わせて微笑んだ。
それから、人混みを分けて前のほうに行った。
今、『ヨウ』って言われたよね。
まさか
ヨウ…スケ…?