気まぐれ短編集


骨ばった手の綺麗な指先がボタンを押した。


「どうぞ座ってて」


頭に降ってくるやわらかな声に顔を上げると、大人っぽい雰囲気の男子がニコッとしていた。

ふわり、とミントみたいな匂いがする。

あ…この人…。


確か…クラスの女子が三年生にかっこいい先輩がいるって……

この人を全校集会のときに指していた気がする。


まじまじとその人の顔を見ていたら、その人を呼ぶ声がした。



「ヨウ!前のほうに行っとこうや」


坊主頭の小柄な男子が片手を挙げて言った。



ヨウ……………ヨウ?


「おう、待って」


ぼけっと『ヨウ』と呼ばれた先輩を見ていると、彼は私に視線を合わせて微笑んだ。


それから、人混みを分けて前のほうに行った。



今、『ヨウ』って言われたよね。



まさか



ヨウ…スケ…?



< 14 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop