気まぐれ短編集
そんな、柄にもなくピンクな妄想をしているときに
それは、起きた。
***
「陽菜(はるな)、引っ越しするぞ!」
父親のお椀に白米をつぐ手がとまる。
「え…?」
引っ越しって…。
お父さんを見ると、ニコニコしていた。
歳のわりには元気そうな顔が、さらに三割増しくらいに元気な顔をしている。
「いやなぁ、お父さんもこの歳だろう?だから異動はされにくいんだけど、課長から提案を受けてな。快く受けたよ」
待って。
なんでこんなに動揺してるんだろう?
「ずっと前から言ってたもんなー。『都会に行きたい』って。良かったなー、大阪の本社だぞ。日本五大都市のひとつだな。なぁ母さん」
「ええ。私ねー、ここ結構好きだったんだけどやっぱり都会の方が魅力が強くて♪」
四十も半ばを過ぎたお母さんも、都会に憧れる若者のように目を輝かせて言った。