気まぐれ短編集



「そう言えば、万里(まり)ちゃんも一昨年のクリスマスパーティーもしっかり来てたわよねー。」


「いいじゃないですかー、ちゃんと志望校には合格したんだから。」



あたしはぶーっと膨れてみせた。

先生はあたしの顔を見てふふっと笑った。



「ま、そういうワケだから。万里ちゃん、クリスマスソングのピアノを何曲か弾けるようにしててね♪」

「ええー!?」


『そういうワケ』ってどういうワケだ。


「年長者の義務、なーんてね。」


先生は立ち上がって楽譜棚の前に行くと、何冊か取り出して持ってきた。


「『きよしこのよる』とー、『White Christmas』は練習しててね。余力があれば、こんなのとか…」

「ちょ、先生っ!3日でそれはキツいですよ!」



先生が、坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』なんか提示してきそうだったから慌ててストップをかける。


だいたい、この楽譜の曲って確かアレンジが難しいやつだ。

そんな3日で弾けるようになれなんて、鬼畜だ。


「えー。じゃあこれは別の子にやってもらうかぁー。」


先生はさも残念そうに眉を寄せて嘆いた。


「じゃあ、この2曲は、完璧にね?」




だから先生、その顔は鬼畜だってば。



あたしは溜息をついて、その楽譜をかばんに入れた。





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