気まぐれ短編集



楽譜を譜面台に置くと、白と黒の鏡に両手を滑らせてあたしは構えた。




あたりまえ過ぎて『告白する』なんて今まで考えもしなかったけど。



明日、言ってみようかな。





瞼を閉じて、ひとつ、賭けをした。




右手の人差し指が押す鍵盤の音が何かを予想して、本当にその音が鳴ったら。





明日、翼くんに『好きだ』と言おう。






ミ、かな?



微かに震える指先が、鍵盤を叩く。






ーーーE~♪




今日、初めての音は

『E(エー)』、つまり『ミ』。





「…明日、何を着て行こう…?」




あたししかいない家にあたしの声が、ぽつりと落とされた。





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