気まぐれ短編集
翼くんの匂いは、すごく落ち着けた。
なんか、ストンってあたしにはまる感じ。
どちらからともなく膝を折り、廊下に座り込む。
「……すごく不安だったんだ。どんどん万里ちゃんはピアノ上手くなっていくし、万里ちゃんばっかり大人になっていく気がしてさ。」
そんなことを吐露する翼くんの頭の位置は、確かあたしとほとんど変わらない高さだった。
「どんだけ俺が万里ちゃんだけを好きか知らないだろ、万里ちゃんは。」
顔を上げてあたしを見つめる翼くんは凶悪なくらい美しい天使のようだった。
「ま、そのうち教えてってあげるけどね。」
不意に、頬に柔らかい感触がした。
「…なっ、つ、翼くんっ!?」
「今は、ここまでね。義務教育抜けたら覚悟しててよ♪」
そう言って翼くんは天使と小悪魔が入り混じった妖美な笑顔を浮かべた。