気まぐれ短編集
3:みずいろとみかんいろの時間
【みずいろときいろの時間】
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「せんぱい、先に帰ってて構いませんよ。」
バトンを部室倉庫にしまいながら美羽(みわ)が言った。
長く結われた彼女のポニーテールが陽を浴びて輝かしい茶色に染まっている。
「わたしちょっと教室に忘れ物しちゃって。」
あどけなくエヘヘと笑う。
「…待つ。」
俺が一言言って、倉庫の鍵を掛ける。
すると、彼女はふるふると首を横に振って笑った。
「すぐ、…あ、たぶん同じ電車に乗れるくらいには追いつきますから。」
美羽がこういう笑い方をした時は、もう一歩も譲らないということはとうに知っていた。
俺は渋々といった感じでなんとか頷いた。
「無理して急ぐなよ。」
俺は美羽の目を見て念を押すように言った。
「分かってますよ。」
美羽はちょっといじけたように口を尖らせて言う。