気まぐれ短編集
今日の練習に、学校の周りの急な坂のダッシュを50セットというかなり疲れるメニューがあったのだ。
日頃から他人よりは身体を動かしているとはいえ、彼女も全身にかなり負担がかかったはずだ。
その疲れ切った身体でさらに走るという暴挙は、先輩としても止めなければならないことだった。
「自分のコンディションくらい、自分でコントロール出来るのに。」
美羽はふいと身を翻して部室の更衣室のほうに脚を向けた。
ばかか、こいつ。
「んなこと分かってるんだよ。」
俺は先を歩く美羽の細い手首を手加減して引っこ抜く。
「なっ…」
美羽はこんなにも簡単に俺にもたれる形になってしまった。
こんな弱い力でよろけるのに心配しない方がおかしい。
つーか。何より、
「それくらい心配していいだろ、彼氏として。」
俺が胸にもたれかかる美羽の顔を斜め後ろからみると、盛大に顔を真っ赤にさせていた。
勝った。てか、勝たせない。
俺は思わず頬を緩ませた。
END
【みずいろとみかんいろの時間】