気まぐれ短編集
「卒業式の日、ひとりで泣いてたよ」
チラと奴の方を見ると、楽しそうな顔をして俺に微笑んでいた。
はあ、と溜息が無意識に出ていた。
『誰が』、というのは愚問だから言わないのだろう。
「お前…いちいち鬱陶しい」
「およ?ひとりで卒業パーティーの会場に乗り込めるとは思えない可哀相な皓のために俺が一緒に行ってあげるって言ってるのに」
「そこまで気を回さなくてもいい」
「もうっ、素直じゃないんだからぁ~」
「…ホントお前気色悪いぞ」
心底、目の前の男を怪訝な目で見つつ、コーヒーをすすった。
先に自分が注文していたホットの『アメリカンブレンド』コーヒーとやらは、高校卒業したての俺にはまだまだ早すぎたらしく、思わず顔をしかめるほど苦かった。
「にが……」
「おこちゃまな皓には恋もブラックコーヒーもまだまだってことだね☆」
「ココアを注文するお前に言われたくないが。」
ジロリと奴を見るも、俺の視線など歯牙にもかけずニヤニヤしていた。
「お前はどうなんだよ」
「え、何がぁ?コーヒーはカフェモカかカフェラテじゃなきゃ俺むりぃ~」
「バッカそっちじゃなくてっ…!!」
「――おれは、女を知ってる」
………同類か、それ以下だと決めつけていた俺には
…かなりの衝撃だった。