気まぐれ短編集


「……いつ?」


『何が』を言わないのはせめてもの意地だ。



「中2のときだったかなぁ。中3のお姉様に奪われちゃった」


キャーとわざとらしく両手で顔面を覆う稲穂頭。



早い。早すぎる。


俺は愕然とした。


「…って言ってもソレ目的で近づいてヤッたわけじゃないよ。半年付き合ってたし。まぁでも受験勉強がストレスになってて色々自棄になってた気がしないでもないけど」

「今は……」

「今はもうなんでもないよ〜。そもそも遠恋とかムズカしすぎるでしょ、中学生と高校生じゃ。自然消滅していってしばらくして確認したら『ごめんね』ってさ。めんどくさくなったのかもねぇ〜」


目の前の男が頬杖をつき目を細めてどこか遠くを眺める。

何となく、コイツはその別れたとき『ちゃんと』悲しかった気がした。


「てゆーかイマドキ中学生で『初めて』ってヤツはそぉんなに珍しくもないんじゃない?」


「そんなもの?つか、なんで下に話がズレてるんだよ」


「あぁそうだったね、女泣かせの皓クン」


奴はヘラヘラした顔で笑う。

ちょうどそこへ注文したココアがさっきのウエイターによって運ばれてきた。



「ねえ何があったの?」






何、か。


俺と彼女の間に何かあったわけじゃない。



あるのは、完璧に俺の方。



思えば、あのバレンタインの日から俺の中ではある感情が巣食い始めていたのかもしれない。





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