case of mistaken identity
俺より遥かに小さいはずのリリーの背中が、その溢れ出す風格と威厳に大きいものであるような信頼を与えてくる。

その背中からよく透る声が辺りの粘ついた空気を凛と震わせる。





「お話の最中だって言うのに、野暮な子達」





そしてその細い腕を、小さな左手を差し出す。












「あなた達はお呼びじゃないわ」







強い拒絶の声に合わせて差し出した左手の指を空気相手にデコピンするようにピンッと弾く。

瞬間。



スウゥ…パアァンッッ!!



水の中から泡が浮かび上がって、弾けるように奴らが、"空間が弾ける"感覚がした。


バサッバサッ
カアァ………カアァ………

相変わらず人影の見当たらない山沿いの歩道、
何処かで烏が鳴いている。
吸い込む空気が恐ろしく軽く感じた事で、頭の隅の方で戻って来た事を実感する。



「両方よ」

「………へ?」


唐突なリリーの言葉につい素っ頓狂な声をあげる。


「父様はどちらも平等に生み出してくださったわ」





そう背を向け話す声に普段の彼女の気丈さは見えず、
愛しそうで、
懐かしそうで、
淋しそうで、


エアリーが話す時よりも強いリリーのひいじいちゃんへの執着に、二人の間にある何かを見たような気がした。
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