case of mistaken identity
「くそっ!」



俺は直ぐさま居間の戸を閉め自室に戻る為に縁側に出る。



すると…










「お兄さん、そんなに血相変えてどこへ?」

「…っ…?」





庭先には若い男女が数人、楽しげに談笑しながら俺に声をかけたところだった。
不自然な程に自然。

この"神隠し"の世界で、自分以外の正気を持つ人間がいる可能性はかなり低い。








しかし、俺の頭の中は、"神隠し"遭遇率の高い経験から、見分ける方法を知っていた。

俺は口の端に笑みをたたえ、敵意を剥き出しにして言った。















「お前ら、"何"だ?」












奴らがその瞬間その個々各々に違う顔を、一様にして同じ笑みを浮かべたのを、俺は見逃さなかった。




ドロッ




その体が溶けるように崩れた時にはもう俺は走り出していた。

正気を持った人間である俺は全くの意思総体を失った塊の状態のこいつらより、一度意思総体の"ようなもの"を持った後のこいつらの方がやりやすい。






無駄に親父に鍛えられてきたわけじゃない。
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