case of mistaken identity
彼は笑みを崩さずにその胸元にたおやかに手をそえた。



「名を、当てていただけますか?」




その綺麗なテノールは耳に心地良い。
名を当てられなければ彼は俺をひいじいちゃんの次の技師とは認めないだろう。

俺は神経を研ぎ澄まして、俺より背の高い人形と向き合う。


瞳は澄んだ紫。
おそらく、紫水晶、アメジストだろう。



俺は、なるべく焦らないように自分の中でそれが浮かんでくるのを待った。










「…………"マナ・レスター"」

「ご名答」


そう言って彼はさらににっこりと笑った。


「久しぶりね。マスター」

「マスター?」

「皆彼をマスターって呼ぶのよ」


縁側にいた二人が近付いてくる。


「私は父である良寛 蒼碧(ヤヤモト ソウヘキ)に造られた最後の作になります」


曾祖父の作った最後の作品。
現実的な存在感と、非現実的な美しさを併せ持ったその魅力というのだろう力に、俺はひいじいちゃんの力を目の当たりにした。






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