case of mistaken identity
「そう言えば、どうしてこんなところに?」

完成しているから親父に壊される心配がないと言っても、基本内気な性根であるエアリーは俺の自室以外では俺がいない屋敷内を一人でうろついたりしない。
聞かれた方はと言えば質問されてその目的を思い出したらしく控えめに顔を輝かせて見せた。

「新しいケースが焼き上がってたの、早く知らせようと思って」
「マジか!?」


すぐさまエアリーを抱えて廊下に出る。

向かったのは自室。




ガラッ
パタンッッ

部屋の戸を閉めてしばらく耳を澄ます。
誰も近くにいないのを確認してから俺は部屋の真ん中の畳を外した。

畳の下の隠し扉。

ひいじいちゃんが使っていた西洋人形を作る時用の作業場につながっている。
初めて会った日にエアリーが教えてくれた場所だ。

暗い階段を下りて部屋に着くと、エアリーがつけておいてくれたのであろうランプのオイルの匂いが鼻につく。


既に火の消えている釜戸の前には焼きあがった西洋人形のボディーパーツがあった。


丁寧にひび割れ等がないかチェックするがそれらしいものは見つからない。
綺麗な焼き上がりについ頬が緩んでしまうのがわかった。

「エアリー、仕上げにかかるぞ」
「はいっ」

嬉しそうな声と共に俺が指示した他のパーツや装飾品を用意する。

新しく仲間が出来るかも知れないと期待があるのか、エアリーはいつもより嬉しそうだ。

その様子を見ていると、やっぱり俺もその期待に応えたいと、気合が入る。



なにより、今回の人形はかなり出来が良さそうだ。

まだ眼も髪もはめていない今の状態から見ても、鼻や頬の起伏が綺麗に出来ている。


俺自身これからの工程が楽しみで仕方がないのだ。
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