case of mistaken identity
出来上がった人形を机の上のミニチュアの椅子に座らせ、神経を集中させる。

透明な水に一滴の墨を落とすように、一つの名前が、俺の中に浮かび上がった。

名前は、口を付いて出てくる。











「…リ、…リー……。"リリー"」










ブワァッ


その人形を中心に沸き上がる風を感じ、成功した事に鳥肌が立つ。
人形はゆっくりと瞼を上げ、その紅色の瞳に命の光りを点す。


「リリー様っ!」




……えっ?


不意に俺は自分の足元、声の主であるエアリーを見た。
どうやら俺はエアリーにつぎひいじいちゃんの"娘達"の一人とシンクロし、宿らせることに成功したらしい。

しかし、
『様』ってなんだ?




「久しぶりね。エアリー」


椅子から立ち上がり微笑むその可憐さに、作り手ながらつい見とれる。
すぐにリリーはその愛らしい顔を引き締め、俺を厳しく見据える。


「父様程ではないにしろ、よく私の気に入るケースを作り上げたものね」






頭が真っ白になる。
だがこれだけは今はっきりした。




俺、めっちゃ見下されてる。
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