case of mistaken identity
あまりに静か。
鳥や虫の声すら聞こえない。
「ひいじいちゃんはどうだったん……だ?」
話を繋ぐように言葉を紡ぎ出したのと同時、
"周りの温度が明らかに下がった"。
何処かで耳鳴りに混じった数多の声に成り切れない"音"が聞こえる。
"神隠し"だ。
確信した瞬間山あいの茂み、家々の角、門、壁からヒトの肉の色をした出来損ないの人形のようなものがブクブクと出てくる。
俺は苛々と舌打ちをする。
この荷物の多い時に!
生身の人間がまともに『これ』の相手をすれば普通取り込まれ"還り路"を見失う。
俺は何が災いしてか、神隠しに遭う事が多かった。
だから、脚力、もとい逃げ足には多少自信がある。
「わりぃリリー。ちゃんと…」
フワッ
掴まってろよ、と言い切る前に視界の端を真新しい群青色が軽やかに舞って行った。