約束
「…いったい、なんの呼び出しだよ…」

小さくため息をつきながらも俺は、賀川先生の所へ走った。そして、息を整え扉を叩き

「星野です。入ります。」

一言、声をかけ扉をゆっくりと開け中へと入る。

「ああ、星野。突然、呼び出して悪いな。」
「いえ…」

賀川先生の前に座りそう返した。そして…。

「それで…あの…なんですか?」

恐る恐る、問いただしてみると

「いや…その…進路のことでちょっとな」
「?」

言いづらいのか賀川先生は、片言に話し出す。

「えっと…何か問題でも?」
「いや…実はな、先方からお前を推薦したいって言ってきてるんだよ」
「…はっ?」
「なんでもお前の父親の知り合いらしくてな」
「…それって賀川先生の知り合いでもあるんじゃ…」「まぁ…な」

小さい頃に亡くなった父と賀川先生は、高校時代からの親友だ。その事を知ってるのは俺の家族と龍司だけ。


「…信用できるんですか?」
「……」

俺の問いに賀川先生は、困ったように黙り込んだ。

「…信用…できないんですね?」
「…正直…あいつからの推薦は、星野には、薦めたくはないな」
「……」

心配そうに前髪を掻き上げて賀川先生が言う。

本来、教師なら喜んで薦めるだろう。だけど…賀川先生は、いつも俺だけには、教師ではなく兄みたいに接してくれる。

「…星野は…どうしたい?」
「…正直、推薦は嬉しいです。でも、俺は、龍司たちと一緒にちゃんと試験を受けたいです。それに賀川先生が信用できない相手からの推薦なんて俺は、受けません」

真剣に俺は、自分の意志を賀川先生に伝えた。

「わかった。俺の方から断っとくよ」
「すみません」
「バーカ、気にするな。教師が生徒の意見を優先するのは、当たり前だろ?それに俺にとってお前は、大事なヤツでもあるからな」
「…ありがとうございます」

賀川先生の気持ちは、凄く嬉しかった。あの頃から変わらず俺を弟のように大事にしてくれる。それは、今も変わらない。

「でも、あまり俺ばかり構ってると贔屓だって誤解されますよ?」
< 58 / 64 >

この作品をシェア

pagetop