約束
あの時の龍司の表情の意味を俺は、考えていた。いつも優しくて穏やかで俺を強い思いで守ってくれていた。そんな龍司が見せた辛くて悲しそうな表情。その理由を俺は、知っていた。

「…あまり自分の気持ちを言わないけど…繊細…なんだよな。」

そう呟いていると不意に龍司と目が合った気がした。

「?」

そして、次の瞬間

「皐ー!!」

大声で呼ばれた。その声の方を見るとそこには、汗をタオルで吹いている龍司がいた。

「…お前…大きな声で呼ぶな!」
「だって嬉しいからさ!」「…また、お前は、そんなことを…」
「部活、終わったから…そっち行く」

軽く笑い龍司は、一言俺に言うと部室へ向かった。

「…少し…元気ないな…」
小さく呟き俺は、龍司を待った。


数時間がして着替え終えた龍司が教室へとやってきた。そして

「…皐…あの家に…行こうぜ?今日は、二人だけで…」

どこか弱々しい声で言う龍司に俺は、ただ頷くしかなかった。帰り道、俺たちは、何も話すことはなかった。寧ろ、龍司の方がずっと黙ったままだった。

(…ここまで落ち込んでる龍司は、久しぶりだな…)

そう思いながら俺は、あの場所へと歩いた。

家の中に入ると龍司は、鞄を置きソファーに座った。

「…皐…」

静かに弱々しい声で呼ばれ龍司の目の前に俺は、立つ。それに気づきそのまま龍司は、何かにすがるように俺に抱き付いた。

「龍司?」
「…お前は…俺の気持ちが迷惑か?」
「…はっ?」
「俺のお前への思いは、小さい頃からずっと変わらない大切な可愛い幼なじみで親友。」
「……」
「ずっと俺がそばで守りたいと思ってた。そして、その気持ちは、玲一さんがいなくなって更に強くなったんだ」
「龍司?」
「だけど…不安なのも確かなんだ」
「?」
「由岐が言った通りいつまでもお前と一緒にいられるわけがない…わかってるんだよ…俺だって…だけど…どうしようもないんだ…皐と離れるなんて俺には、できないんだ」
「……」

そして、強く失うことを恐れるように龍司は、俺を抱き締めた。
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