それでも君が好き

「髪やってあげる。」

澪の手を引いて寝室に戻り、化粧台の前に座らせる。翔太郎は澪の後ろに立つ。

翔太郎は澪の髪をセットするにが日課になっている。翔太郎は美容師で、有名美容院の店長である。更に周りの人間にはカリスマ美容師と称えられている。彼自身、ソレを言われるのを嫌だと感じていたりする。自分はカリスマではない、ただ人の笑顔を見たい、その人の魅力を最大限に引き出したい、ただそれだけである。

髪を梳かす。指を滑らせる。髪一本一本に性感帯があるみたいに、翔太郎の優しい手つきに澪の華奢な身体が疼く。照れて薄くピンク色に染まった頬に手を添える。

「さ、完成だ。」

ほわほわとした笑顔と共に「ありがとう。」を告げる。この笑顔が見られるのなら、なんだってする、と、澪の笑顔とともにありたい、そう思わずにはいられない翔太郎。

「そのままでいて。ずっと、そのまま。ずっと、変わらず。そのまま。」

不意に存在を確かめるみたいに、細く柔らかい身体を抱きしめ、首筋に唇を寄せる。「あっ。」と声を漏らしてしまう。首筋もまた性感帯。「知りつくされた」身体を抱きしめる翔太郎の腕に触れ、寄り添った。

「翔太郎君?」

「仕事の時間だ。もう行かないと。」

「うん。」

ツンと胸の奥が痛くなる。身体に隙間を感じて温度が下がる。もやもやとして、悲しい。
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